『タイルならべて』
 建築現場の休憩所。安夫にバイトを斡旋してもらった善之。今日が初日である。あれこれと世話を焼く安夫だが、話しているうちに自分がいかにこのバイト生活に不安を感じているかと、グチりはじめる。そんな安夫を「甘いですよ、そんなの、バイトはずっと続くだけですよ」と善之にたしなめられてしまう

 バイト生活が日常になり、恒常となっているんだけど、どこか心の奥底の方で危険信号みたいなものが発信されている気がする、という話を、最近あちこちで聞くんです。バイトはバイトと割り切っているにも関わらず、どこかで「このままが、いつまで続くんだろうという不安」「次にまた探す不安」「保証がなく安定しない不安」というのが頭をもたげてくるようです。もちろん、それは実はどこかに就職していたとしても、同じような気持ちにはなるはずなんですけど、同じ感情を描くのなら、サラリーマンよりもバイトの方がより突出して描けるだろうと思ったわけです。危険信号と書きましたが、危険信号といっても赤信号ではないんです。黄色の信号ですね。自分の胸の内から発信されている黄色の信号、それも点滅している黄色の信号なんですけど、それを関知してしまった男を描きたかったというわけです。赤信号をドラマにするのはそんなに難しくはないんです。赤信号だと、すぐになにか起きるだろうし、もしかしたら、すでに起こっているかもしれない。でも、黄色は起こりそうで起こらない。まだなにも始まってないし、終わってもいない。だから、余計に不安である、という物語になればと思いました。